佐藤闘介監督が裕木奈江さんと34年ぶりにタッグを組みました
「地球の長いお別れ The Longest Goodbye」
鑑賞後、しばらく芳醇な味わいの酒に酔いしれるような映画だった。全体に漂うリリカルかつアイロニー。思いもよらぬ背徳と人間の孤独に痺れる。
小道具の効果的演出。灯りのとり方、逆光、色使い。モノクロからカラーのシークエンスも成功していると思う。自然音、煙で表す心情、細かな描写も抜かりない。
作家で父親の後藤洋平役を演じる佐藤闘介さんと、妻の百合絵に扮する裕木奈江さんのシーンには、映画ファンとしては格別な熱い気持ちがこみあげる。
若き監督・佐藤闘介✖️鮮烈ヒロイン・裕木奈江「曖・昧・Me」は34年前のタッグ以来なのだ。裕木さんのふんわり感は健在で、母性を孕んだ新しい魅力は、まるで冬の陽だまりのよう。同じ空間での、佐藤さんのはにかむような笑顔にときめいてしまった。
俳優、佐藤闘介さんの重厚感とダンディな渇きにたいして、月岡健人役の澤谷タカヒロさんの皮肉屋な色気(三白眼が素敵)と、胸のうちに秘めた純情が堪らない。彼の三千代への複雑な愛のうねりをよくここまで一つの世界に落とし込んだなと。三千代役の岬花音菜さんの愛らしさと、過酷な愛の描写の美しさに息を呑む。幸彦役・西川航さんの脱力感と憂いも素敵だ。テーマが高尚で命の青白い炎が見えた。
「酸っぱく痺れて、拒絶された」などの数々の名セリフに、いちいち魂が震える。美しい小惑星の宇宙CGは、人間の抗えぬ存在世界とシンクロしていて、スケール感を出すとともに運命の悲壮感を掻き立てられた。洋平の喪失感と罪を背負った後ろ姿が極上ダンディズム(お父上・佐藤允さんを彷彿。後光が射して見えた)。允さんの言葉のクレジットに泣け、勇気と希望をもらえる。
私ごとだが、佐藤允さんとは「勝利者たち」という映画で仕事をご一緒させていただき、もっと遡ると「転校生」でも尾道でお会いしている。光栄なことに何人かで酒場で飲んだときに、允さんの芸術愛の一面に触れた思い出がある。マティス、ゴーギャン、ルノワールなどの絵画を愛し、ご自身も旅をしてお描きになられていると。
それを思い出すと、「地球の長いお別れ」には、お父様のDNAが随所に実を結ばれているように思える。これまでの一連の佐藤闘介作品もだが、構図も色味はもとより、人間の本質を捉えようとする意欲と視点が凡人ではないとしみじみ思えるのだ。
奇しくも、コロナ禍を経て、地球上にさまざまな争いが起きた今に、地球の終末感漂う大人の映画が放たれる。人間のビターな罪深さと、儚くもロマンの香りを味わえる時間。佐藤允彗星の煌めきを、佐藤闘介監督新作で観られる奇跡もまたロマン飛行だ。脚本監督出演の佐藤闘介氏の、gift(才能)の詰まった今作の上映が決まって心よりお祝いしたい。