酒言葉は「オーガズム」

昨夜、新作小説「ふたつの月に濡れて」(紅文庫)を持って、とあるバーをノックしました。大人のバーへは、一人で。最初の一杯を呑むことは、何ごとにも代えがたい大事な静寂の時間ーー。

私は家人達から離れ、一人の大人の女へと変わります。

「本は形に残るからいいですね、酒は作っても消えちゃいます」

マスターは、そう言うと文庫本を手にとってしみじみ呟きました。

小説の中の「オイルランプ」「バックバー」「ギムレット」などは、このバーでの体験がモチーフになっています。

「この本の中には残りますね」と、私は照れながら言いました。

マスターは微笑んで、いつものギムレットをシェイクしてくれました。BGMは、もちろんジャズ。

「コロナで縛られてしまい、お客様に話題が提供出来ないんですよね」

これは作家も同じです。“遊び“をしてインプットしないと、原稿にアウトプット出来ないのです。

20代の頃、新宿2丁目の文化人バー「bura」に通いながら、私小説を書いていました。その店に流れていたのもジャズでした。

およそ家庭臭のなかった男女の色事の末、私は生まれ、育ちました。必死に私小説を書いてきましたが、今はやっと物語が浮かびます。妻、母を経験し、多くの良き先輩、仲間たちに囲まれて、作家として、一人の女として成長しました。

「ふたつの月に濡れて」のヒロイン奈美は、映画「天使のはらわた」シリーズの名美へのオマージュ。脱稿前の小説を読んで、褒めて下さったのが同シリーズの成田尚哉プロデューサーでした。つい先日亡くなりましたが、完成した本を贈呈したかったです。

昨夜のバーでは、最後に「アマレット」を呑みました。酒言葉は「オーガズム」。小説を読んでオーガズムを感じて頂ければ幸いです。

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